(片頭痛の原因と発生メカニズム)
Q.片頭痛はどのようにして起こるのですか?その発生メカニズムはどのくらい分かっているのですか?
(脳内セロトニンの産生と作用)
Q.脳内セロトニンはどこで産生されて、どのような作用があるのですか?
(片頭痛の原因と発生メカニズム)
Q.片頭痛はどのようにして起こるのですか?その発生メカニズムはどのくらい分かっているのですか?
【回答】
片頭痛が発生するメカニズムはまだ十分に解明されていませんが、現在の所、三叉神経―血管説が有力です。片頭痛は何らかの原因で脳の血管が拡張し、その拍動にともない血管周囲を取り巻く知覚神経である三叉神経が刺激されて、頭がズキンズキンと割れるように痛むことが分かっています。
このような片頭痛は天候や睡眠の変化、体内ホルモンの変動、ストレスからの解放など心身のリズムが崩れたときに、起きやすくなりますが、この働きに重要な役割を果たしているのがセロトニンという物質です。実際、片頭痛の早期、予兆の時期には、尿中のセロトニン代謝産物は急速に増加し、片頭痛が始まると、逆に低下します。
脳内のセロトニンは大脳深部の中脳で産生され、近接した視床下部により、セロトニンの分泌が調節されています。視床下部はまたセロトニンばかりでなく、自律神経や睡眠と覚醒、情緒、女性ホルモンなどのホルモン調節に深く関与し、また満腹・空腹の中枢でもあります。人の感ずるほとんどすべての感覚は大脳深部の脳の視床に向かい、その情報は直下の視床下部に送られます。
片頭痛を持つ人は、環境のちょっとした変化や心身のリズムの変化、ホルモン異常などに対して視床下部が敏感に反応する体質が遺伝的に受け継がれているといわれています。この興奮した視床下部からの刺激を受けて中脳からセロトニンが大量に放出され、やがて脳内のセロトニンが枯渇してしまいます。また視床下部のストレス中枢は興奮すると、脳幹にあるセロトニン神経を直接抑制し脳のセロトニン分泌を落としてしまいます。ストレス状態はセロトニン欠乏脳を生みます。
このようなセロトニンは知覚神経である三叉神経をコントロールし、また三叉神経終末にはCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)という物質が存在していることは古くから知られていました。このCGRPは血管の受容体を介して血管を拡張させるとともに炎症を起こすことが知られています。
セロトニンの減少により、三叉神経はセロトニンのコントロールから解き放たれ勝手に興奮し始めます。興奮した三叉神経は脳血管に向けてCGRPを放出し、脳血管を拡張させるとともに脳血管周囲に炎症を起こします。
その結果、脳血管は過剰に拡張し、拡張した隙間から炎症物質が漏出し、血管周囲に起こった炎症をさらにひどくするとともに、血管周囲を取り巻いている三叉神経を刺激して、痛みが増強して脈打つ頭痛が起こるというのです。すなわち体のリズムや環境の変化→セロトニンの消費と枯渇→三叉神経が興奮→CGRP放出→血管拡張、炎症→片頭痛発生という構図になります。
セロトニンはいろいろな臓器に作用し、それぞれの臓器がそれぞれの反応し、セロトニンが作用するセンサーにも、さまざまなタイプがあり、片頭痛を起こす血管だけに作用するセロトニンがあるのではないかと思われていました。その結果、脳の血管だけに作用し、セロトニンに構造が類似しているトリプタンが発見され、現在、片頭痛の治療に広く使用されています。さらに三叉神経から放出されたCGRPをブロックするという抗CGRP抗体が現在、開発されています。
(脳内セロトニンの産生と作用)
Q.脳内セロトニンはどこで産生されて、どのような作用があるのですか?
【回答】
脳内セロトニンは心と体のリズム、精神の安定や睡眠に深く関わっている神経伝達物質です。セロトニンは、腸に約90%、血液中に約5%、脳に約5%あるといわれています。気分の安定や睡眠に影響を与えるのは主に脳に存在するセロトニンで、それ以外の場所に存在するセロトニンと役割が異なります。
セロトニンは、体内にアミノ酸の一種であるトリプトファンという栄養素を取り入れることで合成される物質です。トリプトファンが腸から取り込まれたあと、血液の中を循環し、
腸や脳などトリプトファン水酸化酵素という酵素をもった細胞によってセロトニンが合成されます。
トリプトファンが含まれる食べ物:トリプトファンは、和食であれば、豆腐や納豆、味噌、醤油などの大豆製品、洋食であれば、チーズやヨーグルトなどの乳製品に多く含まれています。特に、バナナにはトリプトファンが多く含まれ、さらにセロトニンを生成するのに必要な炭水化物やビタミンB6もバランスよく含まれています。ただし、そのほかにもあらゆる食材に含まれており、偏食しなければ摂取できるので、それほど意識をする必要はありません。腸のセロトニンは主に、消化管の働きに作用し、腸の内容物を肛門まで運ぶ蠕動運動を
促します。血液中でのセロトニンは出血時に血小板からセロトニンが放出され、血管平滑筋を収縮させて止血する作用があります。
《脳のセロトニンの分泌と作用》
発生学的に最も古い脳幹(中脳から延髄まで)の中央、左右の脳が正中で縫い合わされる部位に縫線核があります。その縫線核群の細胞の多くのものがセロトニンを含んでいます。
特に脳幹上部の中脳の背側に分布する縫線核からのセロトニン繊維は視床下部、大脳辺縁系、大脳皮質などに投射し、セロトニンを放出して、各種の生理機能に影響を与えています。たとえば、感情や記憶を司る大脳辺縁系にセロトニンが伝達されると、不安や恐怖感が抑えられ、精神が落ち着いたり、痛みが和らいだりします。このような縫線核の周囲には、歩行、咀嚼、呼吸などのリズム運動を形成する中枢が局在しています。
脳内セロトニンには次の5つの作用があるとされています。
①大脳皮質への作用:最適な覚醒をもたらす
睡眠中はセロトニンの分泌が抑制されますが、朝が近づくにつれて徐々に放出されます。
太陽の光が網膜に入ると、セロトニン神経が刺激され、セロトニンの分泌が活性化します。すると、血圧や呼吸、心拍が活動的になるので、目が覚めて意識がはっきりしていきます。
②大脳辺縁系への作用:心のバランスを保つ
集中力の低下やイライラなどネガティブな気分を解消し、心のバランスを保ちます。
そのためセロトニンを増やすことで精神的な安定が得られると言われ、最近では「幸福物質」や「幸せホルモン」と呼ばれています。
③自律神経の働きを整える
自律神経には交感神経と副交感神経の2種類があります。交感神経は主に活動している時に働く神経で、副交感神経は寝ている時に働きリラックス効果をもたらします。セロトニンはこの2つの切り替えをスムーズにし、バランスを整えます。
《セロトニンと睡眠の関係》
セロトニンは朝起きたときから分泌が始まり、日が沈む夕方まで分泌され続けます。
日中に分泌されたセロトニンは、夜になると睡眠ホルモン・メラトニンになります。セロトニンの分泌が十分だと、そのぶんメラトニンもスムースに生成されて、快眠につながります。夜12時を過ぎると、だんだんとメラトニンの分泌量が減り、朝になると分泌が停止して、メラトニンに代わりセロトニンが分泌されます。このメラトニンは睡眠ホルモンとも呼ばれ、入眠を促す作用があります。メラトニンは、パソコンやスマートフォンの画面から発せられるブルーライトの光によって減少してしまうため、夜寝る前にパソコンやスマートフォンを見ると入眠の妨げになります。日中はセロトニンを活性化させ、夜はできるだけメラトニンを減少させない生活を心がけることが、よい睡眠につながります。
④痛みを和らげる
痛みは、大脳皮質の体性感覚野という部分で感知しています。
セロトニンは大脳皮質に痛みを伝達する痛覚伝導路を抑制する働きがあるので、脳内で
セロトニンが分泌されている間は痛みが緩和されます。逆に抑制できないと、さほど痛いわけではないのに、脳に「痛い」という誤った情報が届いて苦痛を感じます。
⑤姿勢がよくなる
セロトニンは運動神経を刺激するため、立位を保つための抗重力筋と呼ばれる部分の緊張が高まります。これにより、首筋や背骨の周囲、下肢の筋肉、まぶたや顔の筋肉などが刺激され、姿勢がよくなって表情にもハリが生まれます。セロトニン神経が弱いと、とろんとした顔つきになり、猫背になり、歩き方も弱々しくなります。
《セロトニンが不足したときの症状》
セロトニンが不足すると、ネガティブな思考に陥る、姿勢が悪くなるなど心と身体に
さまざまな影響が出ます。
①ストレスの影響を受けやすくなる
セロトニンが不足すると大脳皮質が過剰に働き、ストレス反応が大きくなるため、通常であれば対処できるストレスに対しても衝動的になったり、悲観的になったりと、精神が不安定になります。このような状態が長く続くと、うつ病やパニック障害、自律神経失調症などを引き起こす可能性があります。
②疲れやすくなる
セロトニンが不足して脳の前頭前野の働きが低下すると、無気力、無関心などの疲労症状を感じやすくなります。また、抗重力筋が弱って姿勢が悪くなります。原因不明の極度の疲労感が長期間続く「慢性疲労症候群」もセロトニン神経の障害が原因だと考えられています。
③寝付きが悪くなる
セロトニンが不足すると、睡眠ホルモンのメラトニンが十分に生成されなくなります。
メラトニンが不足することで、寝付きが悪くなる、体内時計が乱れるなどの不眠症状が
現れます。
《セロトニン分泌を促すには?》
セロトニンの分泌を促すには大きく分けて太陽の光を浴びる、リズム運動、グルーミングの3つの行動が重要とされています。特に鍵は「リズム」にあります。
①太陽の光を浴びる
1日のうち30分ほど、太陽の光を浴びるようにしましょう。光が目の網膜に入ると信号が脳に伝わり、セロトニンが生成されます。朝起きたら、カーテンを開けて太陽の光を部屋に取り込むだけでも効果があります。
②リズム運動
同じ動きを繰り返し行う「リズム運動」は、脳のセロトニン神経を刺激します。
ウォーキングやカラオケをはじめ、腹式呼吸など、意識して行う呼吸もリズム運動として効果的です。
ウォーキング:一定のリズムで筋肉の緊張と弛緩を繰り返すときにセロトニンが放出されやすいといわれています。運動に集中して、リズムが乱れないようにすることが大切です。
ダラダラと歩いては効果がなく、リズミカルに、さらに“歩いている”という動作に集中することが大切といわれています。
ポイントは反復性のある動作であること、リズミカルであること、さらに集中できること。
街中や繁華街では目や耳から様々な刺激的情報が入ってくるため、十分にリズム運動に集中できません。朝早く起きてまだ人通りの少ないときに、公園や水辺などの静かな場所を、毎日30分程度、集中してウォーキングすることです。疲れすぎない範囲で行ってください。このようなウォーキングをする時間をどうしても取れない人は、通勤時に集中して歩くだけでも効果があるといわれています。特に朝日を感じながら集中して歩くとさらに効果的です。ウォーキングのほかに、ジョギング・水泳・自転車こぎ・スクワットなどがリズム運動に当てはまります。
ほかにも、運動ではありませんが、編み物も反復動作で集中できるのでオススメです。
編み物をすると集中できてストレス解消になるといわれていますが、これはセロトニンの効果が表れているからでしょう。
カラオケ:歌を歌う行為は、呼吸のリズムを意識して行うのでリズム運動のひとつです。
セロトニンを分泌したいときは、誰にも邪魔されずに集中して歌うことができる
「ひとりカラオケ」がおすすめです。
腹式呼吸:腹筋を収縮させて呼吸を行います。吐くことを中心に意識して呼吸をします。
実践した後で心理テストをすると、ネガティブな気分が改善されていることも明らかになっています。
丹田呼吸法:丹田呼吸法とは、臍から指4本分下にある「臍下丹田に意識を集中し、ゆっくり呼吸をする方法です。まずは布団の上など少し柔らかい場所であぐらか正座をして、軽く背筋を伸ばします。次に、両手を臍から5センチ下の場所に置きます。これが基本姿勢です。呼吸は鼻を使って行います。まずは、吐く方に意識を向けて呼吸をスタート。スーっと静かに、深く息を吐いて、丹田に向かってお腹をへこますように息を吐き切ります。へこんだところから、手を置いている丹田を意識して再びお腹を膨らますように息をスーっと吸っていきます。息を吐くときも吸うときも、スーっと深い呼吸を意識することが大切です。1分間に7回~8回の呼吸が目安とされています。
咀嚼:食事の際の咀嚼もリズム運動のひとつです。
よく噛んで食べるように顎を動かすことでもセロトニンが分泌されます。
ガムを噛む動作も反復性があるのでオススメです
《セロトニン活性化のための運動効果はどれくらいつづくか?》
ウォーキングの場合、30分程度しかセロトニン活性の効果が持続しません。しかし、1日30分を3か月すると、セロトニン神経の構造そのものが変わり、セロトニン神経の分泌の多い脳に変わるとされています。セロトニンを活性化する運動を継続することで、脳のセロトニン神経の構造に変化が生じ、結果としてセロトニン分泌の多い脳に変わります。
③人と人とのスキンシップ・グルーミング
グルーミングとは人やペットなどと触れ合う「スキンシップ」を指します。
グルーミングを行うと、安心や幸福を感じ、愛情ホルモンとして知られている「オキシトシン」という神経伝達物質が分泌されます。
オキシトシンは、セロトニンの分泌を誘発する働きがあるため、セロトニンが増えます。
エステやマッサージ:心地よく触れあう行動がセロトニンの分泌を促すため、する方もされる方もセロトニンが活性化します。
最近最もオキシトシン関係で注目されているのが、心の触れ合いです。
気の置けない人とゆっくりおしゃべりをして心と心を通わせることが重要といわれています。また、家族の場合は一家での団らんも非常に効果的です。リラックスした気持ちで人と会話をする行為も、オキシトシンが分泌されるため、セロトニンの分泌を誘発します。そのほかに、心から笑っていなくても、笑顔を作ると快感物質が出ることがわかっています。笑顔でいると周囲からの好感度が上がり、人間関係も円滑になります。それによって幸福感を感じやすくなり、脳からも快感物質が出やすくなるといわれています。
また“几帳面”から“いい加減”に思考パターンを変えるのも、セロトニンのバランスを整えるためには大切といわれています。セロトニン不足の人の思考回路は、几帳面で真面目なタイプが多いようです。
真面目な人は、真面目がゆえにネガティブ思考になりがちですが、それを払拭していくことが大切です。そのためには、完璧でなく80%でよしとする思考を根づかせることです。いい加減でいい、“ねばならない”という強迫観念を持たない、ひとつダメでもやり方は無数にある、というふうに思考の幅を広げてあげます。
最初は上手にできなくても、繰り返し、そういったポジティブ思考を植え付けていくことで、心の幅は必ず広がっていきます。上手にできない人は、ネガティブな思いを書き出して、ポジティブに言い換えて書き直すといった作業をしてみるといいでしょう。
心のアンバランスや身体的不調を解消するにはセロトニンをバランスよく分泌させることが重要です。
最後に食べ物ですが、セロトニンを強化するために青魚を積極的に摂ることが大切といわれています。サバやアジ、カツオやサンマなどの青魚は、たんぱく質が多いだけでなく、オメガ3系の油も豊富です。
セロトニンの原料はアミノ酸ですので、たんぱく質摂取は大切です。
大豆製品でもいいのですが、青魚には“いい油”といわれているオメガ3が含まれています。セロトニンをスムースに運ぶためには、油が必要といわれています。そのほかに、おやつはチーズかナッツがいいといわれています。オフィスのデスクの中に、チョコレートやアメを忍ばせて、疲れると食べるという人は少なくありません。甘い物を食べると血糖値が急激に上昇して、一時的に精神が落ち着き、幸せ感を感じるため、疲れが取れたように思えます。
しかし、その後上がった血糖値は急下降するので、眠気や集中力低下、倦怠感などが襲ってきます。菓子パンや糖分が多いジュースやコーヒーなども同じです。
糖質の摂り方を見直すことがセロトニンの安定には大切です。甘い物の代わりに、チーズやナッツを摂れば、たんぱく質やいい脂質を補えるので理想的ですが、これらにはチラミンという物質が含まれています。チラミンは血管を収縮させる作用があり、その収縮作用が消える際にその反動として血管が拡張して片頭痛が起こることがあるので、これらの食べ物に感受性がある人や食べすぎには注意した方がいいでしょう。
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