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院長 田中康文

自然な眠気を強める睡眠薬:ベルソムラ(不眠症:その11)

世界に先駆けて、まず日本で発売になった薬です。ベルソムラは服用開始から比較的早期に効果が出始め、ロゼレムより効果の実感が早く、入眠作用も強引さはありませんがある程度効果を期待することができます。


ベルソムラの作用メカニズムには、「オレキシン」という覚醒に関係する物質が大きく関係しています。オレキシンは日中に増加し、夜間になると減少するので、睡眠状態と覚醒状態を切り替えるスイッチのような役割を果たしています。このようなオレキシンは視床下部のオレキシン神経細胞で作られますが、このオレキシン神経細胞は、覚醒物質として働くオレキシンを放出するだけでなく、オレキシンの刺激を受けとることができるオレキシン受容体を持ち、お互いにその作用を高めあっていることが分かってきました。


これまではオレキシン神経にはオレキシンは作用しないという定説がありましたが、オレキシン神経同士が直接シナプス(神経と神経のつながり)を作り、オレキシン2受容体を介してオレキシン神経同士が互いに活性化しあうことで、オレキシン神経活動が高い状態に維持され、その間、覚醒が維持されることが最近、分かってきました。このメカニズムによって、オレキシン神経活動が高く維持されすぎ、覚醒システムが過剰に働くことが不眠を引き起こしやすくなると考えられています。ベルソムラはこのオレキシンの受容体に働き、オレキシンの働きをブロックし、覚醒物質を抑え、睡眠状態にスイッチさせることで睡眠作用をもたらします。このように本来の眠気を強める形なので、依存性が極めて少なく、強引さがなくて、効果が人によっても異なるという特徴があります。

またベルソムラは、睡眠薬を急に減量したり中断した場合に以前より強い不眠が出現するという反跳性不眠が起こりにくいとされています。

〔ベルソムラのメリット、デメリット〕

メリットとしては、

1.自然な眠気を強くする

2.中途覚醒や早朝覚醒、熟眠障害に有効

3.入眠障害にもある程度効果がある。

4.依存性が極めて少ない

5.処方日数の制限がない

デメリットとしては

1.眠気が残ることがある

2.夢が増えて悪夢になることがある

3.ジェネリックが発売されていないため、薬価が高い

4.湿度に弱い

ベルソムラの最高血中濃度到達時間は1.5時間、半減期(血中濃度が半分になるまでの時間)は10時間とされています。このように最高血中濃度到達時間は比較的短いため、即効性が期待でき、服用から30分ほどしたら眠気が強まってくるので、入眠障害にも効果を期待することができます。しかし強引さがないため、入眠障害に対してはやや効果が不十分となることがあります。

また半減期は10時間と長く、中途覚醒や早朝覚醒、熟眠障害にも有効ですが、明け方になると生理的なオレキシンが上昇して、オレキシン受容体をベルソムラから奪って、覚醒が優位になって目が覚めます。このようにベルソムラの作用時間は、生理的なオレキシンとベルソムラの奪い合いによって変化するため、個人差があります。そのため、ベルソムラの効果が強すぎて翌日に残ってしまうこともあります。

またベルソムラは依存性が極めて少ないため、抗精神病薬として指定されておらず、処方日数の制限がありません。多くの睡眠薬では、30日の処方制限があります。

ベルソムラの副作用としては、眠気が残る、悪夢の2つが代表的です。

ベルソムラは自然な眠気を促す薬なので、人によっては効きすぎてしまって、翌朝に眠気や倦怠感が残ってしまうことがあります。しかし午前中早い時間帯に回復することが多いのですが一部の方でしばらく残ってしまうことがあります。その場合は服用時間を早めるか、ベルソムラを減量するか、あるいはほかの薬に変更します。

またベルソムラは、ノンレム睡眠ばかりでなく、レム睡眠も増加させるので、睡眠全体の質を高めます。しかしレム睡眠が増えるので、夢をみることが増えます。不眠で苦しんでいる方はストレスがかかっていることが多く、夢の内容が悪夢となってしまうことがあります。この場合、しばらくの間、様子をみるか、ほかの睡眠薬に変更することも検討します。

ベルソムラは、2014年に発売されています。薬の開発には莫大なお金が必要となるため、発売から10年ほどは成分特許が製薬会社に認められて、先発品として独占的に販売できます。ベルソムラのジェネリックは、この特許が切れた後に後発品として発売されます。

ベルソムラは湿度に弱いため、半分に分割すると残りの薬は時間が経過すると失活してしまうので、半分に分割した場合は残りは廃棄する必要があります。

〔ベルソムラの用法、併用禁忌・注意〕

ゲルソムラは10mg錠、15mg錠、20mg錠の3種類の剤型が販売されています。

ベルソムラは、年齢によって用量が決まっています。成人では20mg錠、高齢者では15mg錠を就寝前に服用します。下記の併用注意薬を服用している場合は、相互作用で効果が強まってしまうことがあるために10mg錠を使います。

ベルソムラは、肝臓の酵素で代謝され、分解されるため、肝臓の酵素の働きに関係する薬には、併用に注意が必要です。

【併用禁忌:肝臓の酵素を強く阻害する薬】

抗真菌薬:イトラコナゾール・ボリコナゾール

抗菌薬:クラリスロマイシン(商品名:クラリス、クラリシッド)

抗ウイルス薬:リトナビル、サキナビル、ネルフィナビル、インジナビル、テラプレビル

【併用注意:肝臓の酵素を中等度に阻害する薬】

抗菌薬:エリスロマイシン、クラリスロマイシン(商品名:クラリス、クラリシッド)

抗真菌薬:フルコナゾール(商品名:ジフルカン)

抗不安薬:トフィソパム(商品名:グランダキシン)

免疫抑制剤:シクロスポリン

抗不整脈薬:ジルチアゼム(商品名:ヘルベッサー)、ベラパミル(商品名:ワソラン)

食品:グレープフルーツジュース

【併用注意:肝臓の酵素を誘導する薬】

抗てんかん薬:カルバマゼピン(商品名:テグレトール)、フェニトイン(商品名:アレビアチン)

抗結核薬:リファンピシン

これら以外には、アルコールは中枢神経作用があるために、相互に作用を強めてしまうために併用注意となっています。ジゴキシンも濃度を上昇させてしまうことがあるため、併用する場合は血中濃度を測定してモニタリングすることとされています。とくに抗生物質のクラリスロマイシン(商品名:クラリス)は内科や耳鼻科などでよく使われる薬ですが、ベルソムラとは併用禁忌なので注意が必要です。

ベルソムラを使う場合、睡眠習慣を見直すことも大切ですので、睡眠習慣の改善とともに睡眠薬に依存することなく不眠の改善を行っていきましょう。

他の睡眠薬からベルソムラに切り替える場合は、不眠がひどくなってしまうことに注意が必要です。睡眠薬を急に入れ替えてしまうと、前の睡眠薬の離脱症状が起こることがあります。それによって、反跳性不眠(不眠がひどくなってしまうこと)となってしまうことがあります。

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