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院長 田中康文

⑧群発頭痛の発症メカニズムと治療、頭痛ダイアリー(西洋医学からみた頭痛:その8)

(群発頭痛の発症メカニズムと治療)

Q.群発頭痛が起こるメカニズムはどこまで分かっているのですか?またその治療は?


(頭痛ダイアリー)

Q.頭痛ダイアリーはなぜ必要なのですか?









 

(群発頭痛の発症メカニズムと治療)

Q.群発頭痛が起こるメカニズムはどこまで分かっているのですか?またその治療は?

【回答】

群発頭痛は片頭痛の症状に似て、一側の目の奥の痛みから始まることが多いのですが、片頭痛と大きく異なるいくつかの特徴があります。その最大の特徴は一側の目の奥をえぐられるような、あるいは、やけ火箸が目の奥を突き抜くような、鋭く激しい痛みから始まることです。さらに、副交感神経の刺激症状と思われる、その側の目の充血と涙、鼻水、額から汗が吹き出すのがみられます。

右側だったり左側だったりすることはありますが、すべての症状は片側のみに起こるのが特徴です。このような特徴的な症状はなぜ起こるのでしょうか?


最近、炎症を抑える副腎皮質ホルモンが群発頭痛の発作予防に有効なことが分かってきました。このような副腎皮質ホルモンがよく奏功し、目の奥に激しい痛みを覚える疾患として、脳神経内科領域では有名なトロサ・ハント症候群という病気があります。この病気は目の奥にある海綿静脈洞という所に非特異的な肉芽性炎症が起こっていることが知られています。

その症状の類似性から群発頭痛も同じように海綿静脈洞に炎症が起こっている可能性があります。


群発頭痛は片頭痛と同じく、血管拡張をしずめるスマトリプタン製剤がよく奏効します(現在は、群発頭痛発作には速効性のスマトリプタン注射キットを使い、自宅で皮下に自分で注射することが保険で認められています)。また群発期間中はアルコールを少量でも飲むと必ず頭痛が起こることもよく知られています。これらのことから、群発頭痛も片頭痛と同様に脳の血管が拡張するとともに血管周囲の炎症物質によって頭痛が起こっていることが推察されます。

最近の機能的画像を用いた研究によると、内頚動脈など、太い血管が群発頭痛の発作中に拡張していることが分かっています。このような内頚動脈は海綿静脈洞を通ったあと、交感神経からの線維とともに頸動脈管という狭い所を通って脳硬膜を貫いて頭蓋内に入り、その直後に眼動脈という枝を出します。

交感神経からの線維は頸動脈管を通って硬膜を貫いたあと、内頚動脈上に存在する内頚動脈神経叢を通じて副交感神経の翼口蓋神経節に入ります。この翼口蓋神経節は口・鼻・眼のどれに対しても近い位置にあり、涙腺、副鼻腔、歯肉、咽頭、口蓋などの腺分泌にかかわっています。これらのことから、群発頭痛は、内頚動脈が海綿静脈洞を通って頸動脈管という頭蓋骨のトンネルを通って脳に入る部分、ちょうど目の奥のあたりが拡張するのではないかと思われます。

拡張した血管からは炎症を起こす物質が血管の外にしみ出し海綿静脈洞にも炎症が生じ、

さらに血管は骨のトンネルの中でも拡張するので、血管周囲の痛み神経の三叉神経や交感神経を骨のトンネル壁に強く圧迫します。このような神経の圧迫は鋭い痛みの原因になり、拡張した血管による脈打つ痛みが加わります。刺激された交感神経からの信号は内頚動脈神経叢を通じて翼口蓋神経節に伝わり、副交感神経節が活性化され、同じ側の目の充血、涙、鼻水、発汗という副交感神経の刺激症状がでるのではないかと思われます。


このような病態は群発頭痛だけに特徴的なのでしょうか?

片頭痛の人も頭痛が起こる前に一側の眼の奥が痛がることが多く、片頭痛の人も恐らく内頚動脈の拡張が起こっていると思われます。ただ群発頭痛はその症状の激しさと副腎皮質ホルモンが発作予防に有効であることから、片頭痛より血管の拡張と血管周囲の炎症の程度が激しい可能性があります。さらに片頭痛も片側の頭が痛くなることも多く、群発頭痛の一側性の症状も片頭痛のより強調された症状である可能性があります。


また群発頭痛はほぼ毎日、1日の中でも決まった時間帯の夜から明け方に起こることが多く、特に、眠ってから2時間ほどで起こることが多いという特徴があります。このような夜間睡眠中の頭痛は片頭痛でも起こることが多く、これは睡眠中は脳内セロトニン分泌が減少し、さらに睡眠中は副交感神経が働き、脳血管が拡張することと関係すると思われ、群発頭痛ではこれらがより強調された形での夜間の激しい頭痛発作が起こっている可能性がありますが、視床下部がつかさどる体内時計に狂いが生じている可能性もあります。

このように群発頭痛は片頭痛と同様に視床下部を発生源として、脳内セロトニン減少による三叉神経興奮、脳血管(特に内頚動脈)の拡張と血管周囲の炎症によって起こり、片頭痛がより強調された頭痛の可能性があります。


しかし群発頭痛が半年から2年に一度、1~2ヵ月間集中してほぼ毎日頭痛がなぜ起こるのか、また片頭痛は女性に多いが群発頭痛は20~40歳代の男性に多く、女性の3倍にのぼること、さらに群発頭痛の激痛は100%酸素吸入が劇的に効くが片頭痛や緊張型頭痛には効果がないことなど、まだ明らかにされていない点も多く、今後の解明が期待されます。

また群発頭痛も目の奥に激痛が起こる前に片頭痛と同様に後頚部の張りを訴えることがあり、片頭痛と同様に後頚部に圧痛点があるのか、頭痛体操が効果があるのか、今後検討すべき問題も残っています。


なお、純酸素吸入法は、医療用の純度100%の酸素をフェイスマスクを通して毎分7リットルを15分吸入する治療法です。発作が起こったら、できるだけ早く行うと、より効果的です。このような純酸素吸入は2018年から在宅酸素療法として保険適用となっています。

ただし、現行の治療で軽快される方には保険適応にならず、重度の群発頭痛の患者さんのみ対象になっています。また保険適応となっているスマトリプタンの自己注射(商品名:イミグラン注射)ですが、糖尿病患者さんがインスリンを自己注射するように皮下に自分で自己注射する方法を指導してもらいます。有効率は高く注射後5分くらいから効果がでるので群発頭痛の激痛から逃れる最も有効な方法と思われます。

しかし注射を人前でするのは人目が気になるという理由や注射という手技に抵抗があり一般には普及されていないようです。そのため、片頭痛で保険適応になっているスマトリプタンの点鼻(商品名 イミグラン点鼻スプレー)を頭痛時に痛い方と反対側の鼻孔にスプレーする方法が一般的になっているようで、さらに片頭痛の時に使用する錠剤も使用されることが多いようです。また群発頭痛は鼻汁を伴うことが多く、反対側の鼻粘膜から薬液を吸収させる方がより有効と考えられており、この時、頭を水平からやや前屈してスプレーし鼻孔を押さえて鼻根粘膜から薬液を十分吸収させることが大切です。


このような治療のほかに、リドカインという表面麻酔薬をスプレーで鼻粘膜に撒布すると時に有効なことがあります。しかしリドカインの表面麻酔薬は医療保険適応になっておらずアレルギー性鼻炎の時に使用する市販薬のベンザ鼻炎スプレー(抗ヒスタミン薬のほかリドカインが10mg含まれています)を使用することになります。痛い側の粘膜を麻酔させるのが目的ですので、痛い方の鼻孔に頭を少し後屈してスプレーします。


予防法としてはまず禁酒です。アルコールによって血管の拡張が促され、群発期に飲酒すると、数時間以内にほぼ百発百中で発作が起こるといわれています。それ以外にも狭心症の治療薬であるニトログリセリンやニトロールなども誘因になるといわれています。群発期間は禁酒してください。群発期間を過ぎればお酒を飲んでも頭痛は起こりませんので、お酒を楽しみたい人は、群発期間以外のときにしましょう。また喫煙でしばしば誘発されるのでこれをやめること。さらに飛行機に乗ると、群発頭痛が起こるという人が少なくありません。

気圧の急激な変化は血管を拡張させて頭痛を引き起こすことがあるので、群発頭痛の発生時期は飛行機に乗ることや登山は控えましょう。そのほかに、群発期はシャワーですませます。お風呂につかると、血管が拡張し、群発頭痛が始まったり、激しさを増す場合があります。シャワーですませるなどして、頭痛を防ぎましょう。また、日ごろから規則正しい生活を心がけることも大切です。

 

(頭痛ダイアリー)

Q.頭痛ダイアリーはなぜ必要なのですか?

【回答】

頭痛のつらさ、痛みの感じはなかなか正しく伝えられず、自分以外の人に口で説明しても分かってもらえないことが多いのではないでしょうか?

頭痛ダイアリーをつけることは医師と患者さんを結ぶ、最も有効な手段です。

仕事の忙しさ、ストレスを感じたこと、天気や温度、湿度、月経期間などを記入しておくと、頭痛はどれくらいの頻度で起こったのか、どのようなきっかけで起こったのか、いつ起こったのか、どのくらい続いたのか、どのような薬を飲んだのかなど、頭痛に関する情報を日記のように記録しておくと、正確な情報を伝えられ、スムースな頭痛の診断や治療につながります。

週末に片頭痛になりやすい、台風が来ると片頭痛になりやすい、月経が誘因となるなど、片頭痛が起こりそうなタイミングがわかる場合もあります。また、治療を始めてからも、治療効果を確認するためにも役に立ちます。頭痛にうまく対処できるようになるためには、自分の頭痛についてきちんと把握することがとても大切です。

市販の頭痛薬が簡単に手に入り、頭痛が慢性化になったり、あるいは最近のストレス社会などで、頭痛がどんどん複雑なものになってきています。

頭痛がどのタイプなのか、緊張型と片頭痛の混合型タイプなのか違うのか、あるいは慢性片頭痛になっているのかなどを見極めるためには頭痛ダイアリーがとても有効です。日々の頭痛の様子を患者さんが日記をつけるように記録した頭痛ダイアリーが必須です。毎日が片頭痛のようです、そう言われる患者さんを、慢性片頭痛と正確に診断するには、日々の頭痛の様子を患者さんが日記をつけるように記録した頭痛ダイアリーが必須です。

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