口内炎とは、口腔内の粘膜や舌面に炎症が生じ、びらんや潰瘍ができ、通常は発赤や痛みを伴います。口内炎がひどくなり、口中がびらんし舌面上に白い屑がびっしりついた鵝の口のようなものを「鵝口瘡(がこうそう)」と呼ばれています。
臨床上、口内炎は睡眠不足、食生活の乱れ、ビタミンB群の不足などで起こる以外に、胃腸疾患、考えすぎや悩み、怒りやストレスなどの情緒疾患、陰虚に伴う虚か、癌治療後の化学療法治療後などに多くみられます。こうした場合は本来の疾患の治療と口内炎の治療を併行するようにします。
口内炎をひきおこす基本的な病因は熱邪です。熱邪による熱証に対しては清熱剤の使用が一般的ですが、熱証には実熱と陰虚に伴う虚熱があるので、この鑑別が大切です。また、口内炎の症状は臓腑の病変に起因することが多いため、臓腑を考慮した治療が大切です。
「脾(胃腸)は口に開竅(かいきょう)す」、「心は舌に開竅す」、「腎経は咽頭をめぐり舌根に終わる」、「両頬・歯齦は、胃・大腸に属す」などといわれるように、多くの臓腑が口腔とも関連をもっており、さまざまな臓腑の病変を反映しています。
口腔は、咀嚼、唾液腺の分泌、嚥下など、飲食物の入り口です。咀嚼によって食物を噛み砕き、唾液と混ぜ合わせて水分でこねることで固形物を流動化し、嚥下し食道に送る作業は、食物を胃液と混ぜて泥状化し、十二指腸に送る胃の機能とほぼ同じです。従って、口腔は小さな胃といわれています。
また、唾液分泌は食物を体内に取り込みやすくするために消化分解する機能があり、さらに口腔粘膜も種々の薬剤を吸収するなど、分解された食物を吸収して運ぶという脾の機能の側面も持ちます。
しかし「胃は潤を喜び、燥を悪む(にくむ)」と言われ、そのまま口にも当てはまり、口腔内の消化や嚥下に関しては、水分の存在が重要で、乾燥した状態ではこれらは機能しにくく、その意味では、脾よりも、胃の性質を持った部位であると言えます。
従って、口腔内の炎症は胃の状態をよく反映し、胃熱や胃の湿熱などが口内炎に反映されます。からいもの・味の濃いもの・あぶらっこいものなどの嗜好や飲酒癖により胃熱や湿熱が生じ、胃経にそって上昇し、口中、特に口唇内側や頬部に口内炎が多発します。長引くと次第に陰液を消耗して陰虚へと移行し、慢性化します。
治療として口腔だけでなく、胃の方への治療も配慮して、胃熱を冷ます石膏、知母、黄連、滑石、升麻、天花粉、竹茹、枇杷葉などを含んだ、白虎加人参湯、黄連湯、黄連解毒湯、半夏瀉心湯、竹葉石膏湯、清胃散(生地黄12g、当帰6g、牡丹皮9g、黄連3~4.5g、升麻6g)など、胃を中心とした気血津液の状態を調節します。熱より湿の症状が強い場合は茵陳五苓散や竹茹温胆湯を用います。
口のもう1つの大きな役目は言語発声に大変重要であるということです。言語は、意志を伝え、考えを表に出すためにあり、心の機能と深く関係するので、言語に関わる口腔の機能は心に属すると考えられます。特に舌は言語発声に重要で、「心は舌に開竅す」と表現され、心の状態が舌に現れます。
また、舌は二枚舌とか毒舌などと表現されることがあり、前に言ったことと違うことを平気で言ったり、建前と本音を使い分けたりすることを二枚舌と言い、他人に対して辛辣な言葉、悪口や厳しい皮肉のことを毒舌を振るうなどと言ったりするなど、舌は心と深い関係があり、「舌は心の苗」とも表現されます。
しかし言語には舌だけでなく、口唇の動き、口腔の形も重要で、口腔全体が心と関わっていると考えられます。考えすぎや悩みなどにより、心気が鬱して化火し、心火が上昇して舌や口腔を侵し口中がただれ、びらんするとともに、心神を乱し、焦躁や不眠を生じます。長びくと次第に陰血を消耗して陰虚へと移行し、慢性化します。
治療としては、心火を清する黄連、黄芩、山梔子、竹葉、生地黄、木通などを含んだ、黄連解毒湯、三黄瀉心湯、清心蓮子飲、梔子柏皮湯、導赤散(生地黄9g、木通9g、甘草6g、竹葉6g)などが用いられます。なお、黄連解毒湯は服用してもよいし、溶かした液でうがいしても効果があります。また、清心蓮子飲には人参・黄耆・麦門冬などの補益薬が配合されているので、くりかえしやすく、治りにくい口内炎に適しています。
心火を生じる原因として、精神的ストレス、憂鬱・怒りなどの情緒失調から生じた肝火が上昇することによっておこることを認識することも重要です。その場合は、肝火を冷ます竜胆草・山梔子・黄連・黄芩・柴胡などを含んだ竜胆瀉肝湯、加味逍遙散、大柴胡湯(去大黄)などが適応となります。
このような胃熱、心火、肝火などによる口内炎のほかに、慢性的に反復する口内炎として、陰虚火旺という病態があります。
陰虚体質、あるいは慢性病・熱病による陰液の消耗、心火・肝火・胃熱遷延による陰液の損傷で、陰液が不足して相対的に陽気が余るために内熱が生じ、内熱により口内炎が発生する病態です。陰虚火旺の口内炎は慢性的であり、治りにくいのが特徴です。このようなときは、陰虚状態を改善しないかぎり、口内炎は完治しません。滋陰の生地黄、熟地黄、玄参、天門冬、麦門冬、白芍、沙参、玉竹、清熱の知母、黄柏などを含んだ滋陰降火湯、滋陰至宝湯、六味丸、知柏地黄丸、黄連阿膠湯などを用います。
このように口内炎に対しては清熱法がよくとられますが、涼薬を服用しても治らない虚火上炎による口内炎には、老化や慢性病、過労などで気が不足し、気による推動が無力なために体内の熱を放散することができず、そのため口内炎が生じている可能性もあり、その場合は元気を補い機能を高めて熱の放散を強めるために、黄耆・人参・白朮・炙甘草などを含んだ補中益気湯、黄耆建中湯などを用います。また唇が乾燥してひびわれた口内炎には気も血も足りない可能性があるため、帰脾湯を用います。さらに、あきらかに陰虚火旺の症状があるにもかかわらず、涼薬を服用すると症状はかえって悪化し、冷え、軟便などの陽虚症状が強くなる場合は、陰虚のほかに陽虚が存在している可能性があり、温陽散寒の人参湯、附子理中湯、桂枝人参湯、八味地黄丸などを合わせます。
口内炎の対処法は、口腔内を清潔にすることや栄養がありバランスのとれた、ビタミンを多く含む食事を摂ることです。
おすすめビタミンは、B2・B6・Cの3つです。
*ビタミンB2
口周りの皮膚や粘膜の保護、肌の炎症を抑え、エネルギーの再生や代謝など促進する働きがあります。うなぎ・さば・レバー・牛乳・乳製品・チーズ・卵・納豆・きのこ、など。
*ビタミンB6
皮膚・粘膜の強化、炎症抑える働きがあります。マグロ・カツオ・鶏ササミ・レバー・赤ピーマン・キャベツ・バナナ・ゴマ・ピスタチオ、など。
*ビタミンC
傷や炎症を直す働きはあるのはもちろんのこと、免疫力を高める働きがあります。
ピーマン・パセリ・芽キャベツ・ブロッコリー・じゃが芋・いちご・オレンジ、など。