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院長 田中康文

クラミジア肺炎


クラミジアは性感染症としても有名ですが、ここでとりあげるのは肺炎を起こすクラミジアで、全く別物です。クラミジア肺炎は、細菌の一種であるクラミジアの感染を原因とし、肺炎という名前が付いていますが必ずしも肺炎を起こすわけではありません。風邪症候群や急性気管支炎を起こすことがあります。

クラミジアは一般細菌とは異なり、自らエネルギーを産生できないため動物細胞に感染し寄生しながら増殖するという特徴を持っています。

クラミジア肺炎の特徴はヒトからヒトへ咳やくしゃみなどで伝染し感染が拡大することです。この病気は市中肺炎の5~10%を占めるとされ、小児と65歳以上の高齢者に多く見られ、家族内感染や集団小流行を起こします。季節性はなく、年間を通じてみられます。感染の機会が多いにもかかわらず症状が出ないことも多く、健康な成人では、感染しても発病する機会は10%程度と少ないようです。また潜伏期間は長く、症状が出たとしても感染から3~4週間ほどして風邪症状(咳や鼻水、痰、声枯れなど)のみのことも多くあります。そのため診断されないことも多く、会社や学校でゆっくり流行することが特徴とされています。風邪や急性気管支炎では38度以上の発熱は少なく、痰の出ない咳が主な症状で、この咳は3~4週間続きます。そのため、長く咳が続く病気としては無視できない存在です。

特にクラミジア肺炎のうち、C:pneumoniae(クラミジアニューモニエ)と呼ばれる菌種では人から人へ感染するため、家庭内や学校で流行することがあります。肺炎を起こす場合も軽症のことが多いのですが高齢者では重症化することもあります。

調べてみると案外珍しくない感染症で、咳が止まらないときに考えに入れておくべき感染症です。

また最近では、血管に慢性感染を起こしていることが明らかになり、心筋梗塞や脳卒中などの危険因子であることが明らかになってきています。

診断にあたってはクラミジア肺炎にかかると抗体と呼ばれるタンパク質が血中に増加するので、

その抗体を測定します。しかし、初感染と再感染では抗体価推移のパターンが異なります。初感染ではIgMが3週以降に上昇し、次いでIgG、IgAがさらに2~3週遅れて上昇します。IgMは通常数ヵ月で消退しますが、IgG、IgAはいったん上昇しピークを迎えた後、数ヵ月から数年にわたって漸減します。IgAはIgGに比べて早期に低下します。再感染ではIgA、IgGが2~3週で比較的急激に上昇し、IgMは上昇せず、まれに上昇した場合でも低値といわれています。

感染既往を示すIgG抗体保有率は、5歳以降急激に上昇し、15歳以上で約60%、高齢者では約70%と報告されていますが、この抗体には感染防御の機能がなく、終生免疫は獲得しないため、ヒトは何度でも感染し発病します。よって、初感染の多い小児はIgM抗体、再感染の多い成人はIgG&IgA抗体を検査します。

16歳以上の場合、小児に比べて感染既往抗体により弱陽性を示す頻度が高くなることから、カットオフインデックス値でIgAまたはIgG3。0以上が「現在の感染」の一応の目安となります。しかし、感染後、抗体が上昇するまでに時間がかかるため、発症時には陰性~弱陽性のことがしばしばあり、回復期とのペア血清での検査が不可欠です。

1.単血清

①IgM

100以上(小児)

600以上(成人)

②IgG:3.0以上

③IgA:3.0以上

2.ペア血清

①IgG:1.35以上の上昇 

②IgA:1.0以上の上昇

別の報告では、血清抗体(ELISA法)がIgMでカットオフインデックスが2.0以上、あるいはIgAおよびIgGが単血清でともにカットオフインデックスが3.0以上またはペア血清でカットオフインデックス値が1.3以上の変化がある場合、クラミヂア感染が診断できるという報告もあります。

 

《治療方針》

治療に際し重要なことは、クラミジア属は感染後は細胞内に入り込んで増殖するため、細胞内に十分移行するテトラサイクリン系、マクロライド系、ニューキノロン系などの抗生物質が用いられます。

小児には主にマクロライド系、成人では主にテトラサイクリン系やニューキノロン系の厚生物質を用います。8歳未満の小児ではテトラサイクリン系の副作用の点から通常は用いません。投与期間はクラミジアの特殊な増殖様式から、10日から2週間と長めの投与 が望ましいとされています。

軽症例に対して通常は内服抗菌薬で十分効果が得られますが、中等度以上の肺炎で入院が必要な場合はミノサイクリンなどの点滴静注を行う必要があります。

軽度~中等症の場合、処方例として下記のいずれかの薬剤を用います。

・クラリス錠またはクラリシッド錠(200mg)2錠 分2 朝・夕食後 7-14日間

・ジスロマックSR成人用ドライシロップ2g(力価) 1回 空腹時

以上はマクロライド系の抗菌剤です。

・クラビット錠(500mg)1錠 分1 朝食後7-14日間

・グレースビット錠(50mg)2錠 分1 朝食後7-14日間

・アベロックス錠(400mg)1錠 分1 朝食後 7-14日間

以上はニューキノロン系の抗菌剤です。

 


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