鼻水は鼻の前に流れてくることが多いのですが、鼻の奥からノドに流れこむことがあり、このような状態を後鼻漏といいます。
鼻水がノドを降りることは誰にもみられ、気づかない程度にこの現象は生じていますが、副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎、鼻咽頭炎などの鼻の病気により、鼻腔内粘膜の腫れが強くなると、鼻をかんでも鼻水が出にくく、増えた鼻水はのどに流れ込んでしまい、後鼻漏となります。このような後鼻漏では、鼻水が気管支に流れ込むと、痰が絡み、咳や痰が出る(特に朝起きた時)、長く話していると咳が出る、咳が長引く、よる、寝られないなど、生活に支障をきたすこともあります。
従って、後鼻漏による慢性咳嗽は、痰を伴った咳がみられます。
最近、副鼻腔気管支症候群という新しい概念が注目されています。副鼻腔気管支症候群とは、副鼻腔(上気道)と気管支・肺(下気道)に慢性・反復性の好中球性の炎症を合併した病態のことをいいます。
上気道の病変は慢性副鼻腔炎、下気道の病変は慢性気管支炎、びまん性汎細気管支炎、びまん性気管支拡張症を示し、上・下気道ともに好中球主体の炎症がみられます。慢性気管支炎とは、痰を伴なう咳が3カ月以上連続し、2年以上にわたって連続すると定義されています。このような慢性気管支炎は喫煙や大気汚染によって発生することが多いのですが、喫煙歴のないヒトでも発生することが知られています。
従来、副鼻腔にたまった膿汁が、眠っている間にノドどのほうに降り、気管支に入って気管支炎になると考えられていましたが、最近では、副鼻腔から気管支まで同じ性質をもった粘膜におおわれた気道系全体に、慢性炎症をおこすなんらかの体質的な障害があるのではないかと考えられています。症状は、鼻づまり、鼻汁、後鼻漏、嗅覚障害などの鼻・副鼻腔炎の症状に、咳、痰、息切れなどの気管支炎の症状が加わります。痰は、膿性で多量で、湿性咳嗽が断続的にあることが特徴で鼻症状が先行することが多いようです。喀痰は好中球優位です。
《治療の実際》
治療は咳嗽の原因である後鼻漏を止めることを優先します。
慢性副鼻腔炎の後鼻漏による咳嗽にはマクロライド系抗菌薬の少量投与と去痰薬の長期療法(約3カ月間)を行います。
処方例:下記を併用します。
①クラリス錠(200mg)、
クラリシッド錠(200mg)、
ルリッド錠(150mg)のいずれか1錠、1日1回
②ムコダイン錠(500mg)3錠、1日3回に分けて
これらを1か月間投与し、治癒例は終了します。改善例は3か月まで投与します。
通常数週間の内服で後鼻漏と咳嗽が軽快もしくは消失しますが、1か月経っても改善がみられない場合は手術療法など他の治療法への変更を考えます。鼻茸が存在する場合は耳鼻咽喉科による外科的治療が必要となります。通年性アレルギー性鼻炎の後鼻漏による咳嗽にはヒスタミンH1受容体拮抗薬を用います。
下記の薬剤のいずれかを用います。
・クラリチン錠1錠 1日1回
・アレジオン(1回10~20mg、1日1回)
・アレグラ(1回60mg、1日2回、朝・就寝前)
後鼻漏に対して漢方藥を用いる場合は体質や状態に応じて使い分けすることができます。
その詳細についてはホームページ「症状別」の「後鼻漏」を参考にして下さい。
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