最近の我が国における慢性咳嗽の原因疾患として再び注目を集めています。胃食道逆流とは胃酸や胃内容物が胃から食道に逆流することをいいます。その結果、食道に炎症が生じます。
胃粘膜は、自分自身の酸の作用から胃を保護しています。しかし食道にはこのような保護粘膜がないため、胃酸や消化酵素が食道へと日常的に逆流すると、食道に損傷が生じます。食道の最下部には下部食道括約筋と呼ばれる輪状の筋肉があって、正常なら胃の内容物が食道に逆流しないように防いでいますが、この括約筋が正常に機能していないと胃酸や消化酵素の逆流が起こります。最も典型的な症状は胸やけ(胸骨の裏側の焼けつくような痛み)です。たくさん食べた時に咳が出ること、横になると咳が出ることが特徴的です。
胃食道逆流による咳嗽の発生機序として、2つの考え方があります。
1つは、胃食道逆流で食道下端部に存在する迷走神経末端が刺激され、反射性に気道に分布する迷走神経を刺激して咳嗽が発生するという考えです。
もう1つは、食道に逆流した胃内容物が気道に微量誤嚥され、気道炎症を惹起して咳嗽を発生するという説です。加えて、咳嗽により、胃食道逆流が増加し、咳嗽をさらに悪化させるという咳嗽-逆流自己悪循環)も考えられています。
胃食道逆流に伴う咳嗽は、一般的に長期間継続していることが多く、平均の持続期間は約1~6年間という報告もあります。胃食道逆流による食道症状は、胸やけ・口腔内酸味などの症状が代表ですが、食道症状をはっきり訴えないケースも多く存在しています。そのため一般的に2つのタイプ①咳嗽が夜間に好発し、胸やけなどの食道炎症状を伴うタイプ、②睡眠中には生じにくく、咳嗽は昼間に多く、食道症状が乏しいタイプがあります。
胃食道逆流による咳は、会話や起床、食事などで悪化します。また、咳払い・嗄声などの咽喉頭逆流症状も過半数で認められます。しかし、咳払いや嗄声(声がかれる)は、感染後咳嗽やアトピー咳嗽にも認められることがあり注意が必要です。
重要なことは、胃食道逆流があり、その治療で咳嗽が軽減ないし消失することです。
《治療方針》
きっかけとなる物質(アルコールや脂肪分の多い食物など)を避けたり、胃酸を減らす薬を服用することが治療となります。
①まず一般療法を基本として実施します。
・肥満があれば減量に努めましょう。
・アルコールや喫煙は控えるか、できれば中止しましょう。
・逆流防止の食事療法として、低脂肪食の推進、コーヒー・お茶・チョコレート・ミント・柑橘類(トマトも含む)の禁止などが有効です。
過食や脂肪性食事、喫煙は胃蠕動(ぜんどう)運動抑制を生じて胃内容の停滞を生じ、また下部食道括約筋が正常に機能しにくくなるため、逆流が起きやすくなります。またチョコレートやアルコール、コーヒー、お茶、トマトなどは食道酸曝露時間を延長させるので要注意です。胃食道逆流を悪化させる危険因子を減らすことも大切です。
心血管系の薬(カルシウム拮抗薬(降圧薬)・硝酸薬(抗狭心症薬))・ステロイド薬・プロゲステロン・β2受容体刺激薬・テオフィリン薬・抗コリン薬・モルヒネなどを使用している場合は、可能であれば、他剤に変更または中止することも検討すべきです。
特にアムロジピンなどのカルシウム拮抗薬は血管平滑筋だけでなく、胃酸の逆流を防いでくれている下部食道括約筋(平滑筋の一種)も弛緩させると言われています。すると、食道括約筋が緩み、胃酸の逆流が起こりやすくなります。
そのほかに、生活習慣の改善として、寝るときは上半身を拳上する、腹圧を増大させる衣類は身に着けない、腹圧を上昇させ、胃食道逆流を悪化させるような激しい運動を控えなどが大切です。
《治療方針》
胃酸を抑制する治療(プロトンポンプ阻害薬、ヒスタミンH2受容体拮抗薬)が第一選択となります。咳嗽軽快までには、比較的時間(2週間以上)を要することがあるので、慎重に様子を診ていくことが大切です。プロトンポンプ阻害薬とヒスタミンH2受容体拮抗薬の違いはプロトンポンプ阻害薬は24時間の90%程度の時間酸分泌を抑制し、ヒスタミンH2受容体拮抗薬では70-80%の時間酸分泌を抑制するが数日後にはその抑制時間が50%前後に減少します。
下記のいずれかを用います。
・ネキシウムカプセル(10・20mg)1カプセル 1日1回 就寝前
・パリエット錠(10mg)1錠 1日1回 就寝前
・タケキャブ錠(20mg) 1錠 1日1回 就寝前
・オメプラール錠(20mg)1錠 1日1回 就寝前
夜間のむねやけがプロトンポンプ阻害薬単独投与では消失しない場合ヒスタミンH2受容体拮抗薬を加えて効果的なことがあります。
下記のいずれかの薬剤を用います。
・ガスターD錠(20mg)1錠 1日1回 就寝前
・アシノン錠(75mg)1錠 1日1回 就寝前
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