汗疱(汗疱状湿疹、異汗性湿疹)
手足にブツブツが出たり、足の皮むけがおこる皮膚の病気には水虫(白癬)や汗疱、掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)などがありますが、これらの病気はよく似ており、また汗疱や掌蹠膿疱症の経過中に白癬を併発することがあります。
汗疱や掌蹠膿疱症の治療中、特にステロイド剤の塗布によりかえって症状が悪化したり、痒みが強くなった場合、白癬の可能性があるため、皮膚科を受診して、組織を採取後、顕微鏡下に白癬菌があるかどうかをみてもらう必要があります。
汗疱と掌蹠膿疱症はともに手足の限局した部位に水疱がみられ、非常によく似ていますが、汗疱は指の腹や側面、指の股や手のひらに透明な水疱ができるのに対して、掌蹠膿疱症は手の土手や足の土踏まずやカカトに、無菌性ではあるが膿を持ったように白く濁った膿疱がみられます。
ここでは、汗疱について説明します。
汗疱は手のひらや足のうらに汗をかきやすい人がなりやすい病気といわれています。従って、手の指や手のひらに発症することが多いのですが、足の指や足のひらから水疱が出ることもあります。汗がきっかけになることも多い病気なので、春から夏にかけて多くみられます。
汗疱は汗という漢字が付くので、何らかの原因で汗管がつまって、汗が出にくくなって皮膚の下に貯まった状態という説明をされていることが多いようですが、最近の研究では、水疱の中に含まれる水分は汗ではないといわれています。恐らく、汗が何らかの原因で変化し、水疱を形成しているものと思われます。
汗疱から、皮膚の病状が悪化して、痒みが強く赤くなった場合は、汗疱状湿疹あるいは異汗性湿疹と呼ばれますが、汗疱も異汗性湿疹もほぼ同意義で使われている場合があります。
汗疱の発生からその後の経過を以下に示します。
①汗疱の誕生
小さな水疱ができ、この時点では、痒(かゆ)みはありません。
深く息を吸って吐いた時に自分の手のどこに水疱ができようとしているかを知ることができます。この段階では、綿の手袋をつけて物理刺激から手を守ります。
できればこの段階になる前に、手汗を予防した方がよく、敏感肌に優しい制汗クリーム(市販薬ではテサランなどが販売されています)を使うとよいようです。
②水疱の出現
水疱が、表面に出てきた状態です。水疱が大きくなり始め、肌を刺激して痒みが出現したり、湿疹を誘発することがあります。水疱がこれ以上に大きくなって、肌を刺激して痒みが増すのを防ぐために、水疱を針で割いて水疱を破ることもあります。
水疱を破ったあとは、炎症を抑えるためにステロイド剤などを塗って、綿の手袋をします。
③合体した水疱
2~3の水疱が集まり、巨大化していきます。くっついてしまったら、どこかで水疱を破らないとおおごとになります。大きくなりすぎると少しの刺激や指の動作だけで割れます。
この段階では、皮膚を治すためにステロイドを塗り、その上から皮膚を乾燥させて化膿を抑えるために、亜鉛華軟膏あるいは酸化亜鉛を含んだサトウザルベを厚めに塗ったガーゼを巻き、包帯で止めます。
水疱がある状態で亜鉛華軟膏を使うと、皮膚の下で汗疱が大きく成長してしまう可能性があるため、掻きむしって肉がむき出しになり浸出液が出てきたときにだけ、使う方がよいと思われます。亜鉛華軟膏は、患部の浸出液を吸収することで、皮膚を乾燥状態に持っていきます。
包帯は指先なので粘着包帯(ニチバンなど)が薦められます。指先に貼るコツは、幅2センチ感覚で深さ1センチの切れ込みを入れてから貼ることです。粘着性があるので、「遊び」の部分をうまく立体的に巻き付けないといけません。
④水疱の破裂後の激しい痒み
痒いのでかきむしると、どんどん広がり、赤くなり、湿疹も増えて、ジュクジュクしてきます。この場合は、亜鉛華軟膏+ステロイドで包帯、その上から綿の手袋をします。その後、ジュクジュクが乾くと、肌がドライスキンに変わり、乾燥してがさがさになります。肌が一枚剥がれたような状態にまで進みます。この場合は白色ワセリンなどの保湿剤を用います。
漢方で大切なのは汗疱にならないための予防です。
Ⅰ.手汗をなるべく抑える
弱い肌を持つ人は、一般的な汗予防のクリームを使うとさらに肌荒れする可能性があります。
肌荒れの原因になる塩化アルミニウムを含んでいない手汗用の「テサラン」という「手汗専用」の制汗クリームが薦められます。
塩化アルミニウムは汗を抑える効果が強いのですが、肌に強い刺激を与えてしまいます。塩化アルミニウムと比べて即効性が低い「クロルヒドロキシアルミニウム」という肌に優しい成分を使っているので、安全に使えます。サラサラとした感じです。
Ⅱ.界面活性剤が入ったシャンプーの利用をやめる
界面活性剤不使用のオーガニックシャンプーを使います。
Ⅲ.食器洗いは温水を使わない・素手で洗わない
お湯で食器洗いをしている人は、手の油分が失われて乾燥状態になっています。
汗疱になる人は手の皮膚が敏感になっているので、刺激を最小限に抑えるためにも乾燥にも注意します。ワセリンを塗って保護します。
Ⅳ.一度に大量のお酒を飲まない
お酒を飲むと、アルコールを分解するためにビオチンというビタミンが消費されます。
ビオチンは、皮膚を作るための重要な栄養素です。この栄養素がアルコールの分解に利用されてしまって体内から少なくなってしまうことをビオチン欠乏症といいます。
ビオチン欠乏症は、汗疱に似た手湿疹掌蹠膿疱症の原因の1つといわれています。
また、お酒を飲むと血管が膨張して手の血流が良くなり手汗をかきやすくなってしまいます。
ビールなら1日大瓶で2本まで、焼酎なら、1日1合まで、日本酒なら、1日2合までを目安に。
Ⅴ.禁煙および禁食(生たまご、ケーキの生クリーム)
アルコールと同様にタバコもビオチンを大量に消費してしまいます。
また、生の卵白はビオチンの吸収を妨げます。ケーキの生クリームは生の卵白を使っているので、できるだけ食べないようにしなくてはいけません。加熱した卵なら、問題ありません。
Ⅵ.刺激のある食べ物は控える
チョコや香辛料の入った食べ物を食べると手足の発汗が増えますので控えて下さい。
西洋医学ではステロイド剤の塗布や抗アレルギー薬の服薬、紫外線照射、時には抗生剤投与、扁桃切除(病巣感染の対応として)、歯科金属の入れ替え(歯科金属アレルギーの対応として)などがおこなわれていますが、一時的な改善にとどまり、再発を繰り返すことが多く、完全治すことは不可能だといわれています。
一方、漢方では、原因にせまる治療が可能となります。
汗疱は漢方的には肌が汗で蒸されて鬱熱を生じた皮表の湿熱証と考えられます。
また、手掌・足底の皮膚角質の汗管は他の皮膚と異なり、長く螺旋状で汗が詰まりやすい構造をしています。これらのことから、煮詰まった汗の熱と水をさばき、汗管の通りをよくして発汗させるようにします。そのためには白虎加人参湯+防已黄耆湯あるいは茵陳五苓散、越婢加朮湯などを用います。
また手掌、足底の発汗には高温多湿の環境、精神的緊張、体質などが関与しています。そのため、精神的緊張がみられる場合は、緊張を和らげる四逆散、加味逍遥散などを追加して発汗を少なくします。さらに江部洋一郎先生の経方理論では、手掌、足底は胃気と深い関係があります。そのため、胃腸が弱く、すぐに下痢をして疲れやすい人は、黄耆建中湯などにより、胃腸機能を高め、皮膚を強くします。
なお、熱感、発汗に対しては、外表(皮膚)を冷たいタオルで拭い冷やしますが、体内は温める「内温外冷」が原則で、胃を冷やさないようにすることが大切です。
そのほかには、温泉療法(硫黄泉、ムトーハップ、その代替えの村上商会の湯の素、クラシエの旅の宿)などで手足の荒れが劇的に改善したという報告があり、また塩水(水500mlに食塩5g以上)に手を入れると浸透圧で水疱が消え、毎日5分程度洗面器に塩水につけておくだけで、予防できるという報告があります。