むずむず脚症候群はレストレスレッグス症候群(下肢静止不能症候群:レストレスとは“そわそわした、絶え間なく動く”という意味があります)とも呼ばれている疾患です。
この疾患のために、ひどい不眠に長年苦しんでいる患者がいても適切な治療を受けていないことが多く、一般の人の間でも認知を高めるためにマスコミが名づけた疾患とされています。
むずむず脚症候群は以下の4つの特徴的な自覚症状があります。
①脚に不快な感覚がおこり、脚を動かしたくてたまらなくなる
②安静にして、横になったり座ったりしていると症状があらわれる、または強くなる
③脚を動かすと、不快な感覚がやわらぐ
④夕方から夜にかけて症状が強くなる
むずむず脚症候群はじっと座ったり横になったりすると、脚の表面ではなく、内部がむずむずする、ぴりぴりする、かゆみ、痛みなどの強い不快感が現れ、さらに火照るような、蟻やミミズなどの虫が這っているような異様な感覚が現われます。この症状は、夕方から夜間にかけて症状が現れる、あるいは強くなることが多く、布団の中でじっとしていることができず、睡眠障害の原因になります。
症状が起きた場合、脚をさすったり、たたいたり、寝返りを繰り返すことなどで不快感を軽くしようとします。またじっとしていることができず、居ても立っても居られなくなり歩き回らなければいけなくなることがあります。
やっと症状が治まって眠りについても、もう1つの症状の周期性四肢運動障害が起こることもあります。その症状とは、睡眠中に20~40秒間隔で夜間を通して足指や足首、膝、股関節が周期的にピクッピクッと勝手に動き続けたり、あるいは蹴るような運動が出たり引っ込んだりする症状です。しかし大部分の患者は下肢の動きには気がつかず、家族やベッドパートナーに指摘されて初めて気がつくことが多いのですが、時に睡眠が分断されることがあります。
むずむず脚症候群で悩む人の50~80%がこの周期性四肢運動障害を合併しているといわれています。しかし周期性四肢運動障害を有する人の多くはむずむず足症候群は認められなとされています。
むずむず足症候群は脚だけに発生すると思われがちですが、病気の本体は下肢ではなく脳にあると考えられています。従って、症状が進むと、脚だけでなく腰から背中や腕や手など全身にまで現れることがあり、また日中でものんびりしていると現れることがあります。
何かに集中していたり、作業をしたりしているようなタイミングではあまりおこらず、リラックスしていると症状があらわれるのも特徴の1つとされています。特に新幹線や飛行機、あるいは映画館などでじっと座っているときに、足に不快感が生じ、生活に支障を来すこともあります。多くは両足ともに症状があらわれますが、片足だけにあらわれる場合もあります。症状が悪化すると睡眠障害と過度のストレスからうつ病を招いてしまうことがあります。
このようなむずむず脚症候群は、ヨーロッパでは17世紀からこれに相当する病気の報告がみられますが、欧米、特に米国ではほとんど無視されてきたようです。しかし1960年に米国のエクボン博士が、エクボン症候群と命名し米国でも認知されるようになり、現在でも米国ではむずむず脚症候群では通じず、エクボン症候群とよばれています。
むずむず脚症候群はまれに小児にもみられますが、主に中高年、60~70歳代が最も多く、男性に比べて女性の方が1.5~2倍多いと報告されています。しかし、実際のところ、患者さんの多くは10~20歳代から発症している場合が多いようです。また不眠症患者の10人に1人の割合でむずむず脚症候群の患者さんがいるとも言われています。
日本での調査では、むずむず足症候群の患者さんは人口の2~4%で、これは200万~400万人にあたります。しかしむずむず足症候群という疾患に対する認知度の低さからもっと多くの患者が潜在しているとも考えられ、約500万人近く存在するとも推測されています。このうち治療が必要なのは70万人ほどと考えられています。
むずむず脚症候群の原因はまだ明らかにはなっていませんが、有力な説として脳内のドーパミンという神経伝達物質の働きが何らかの理由でうまくおこなわれず、症状がおこるのではないかと考えられています。鉄はドーパミンを作るために必要な物質です。そのため、鉄不足によって症状がおこることがあります。またビタミンDやマグネシウム、葉酸不足も関係しているという報告もあります。妊娠をきっかけに症状があらわれたり、鉄欠乏性貧血の患者さんにおこりやすかったりするのは、こうしたことが関係していると考えられます。
ほかにも関節リウマチや糖尿病、パーキンソン病などの患者さんにも確認されています。腎臓が悪く、透析をおこなっているという患者さんも多くみられます。また家族に発症した人がいると起こりやすいとされています。患者さんのおよそ半数には、遺伝的な体質が関係していると考えられ、特に45歳以下で発症した場合にはその傾向が強いとされています。
むずむず脚症候群は、生活習慣を見直すとともに適切な薬物治療を行うことで、症状の改善が期待できます。
~生活習慣の見直しとして~
①カフェインやアルコール、喫煙を避ける
コーヒーや紅茶、緑茶類などに含まれるカフェインをとりすぎると、脚の不快感を強くするだけでなく鉄分の吸収を妨げ、さらに眠りを浅くすることがあるので、夕方以降はカフェインをとらないようにしましょう。アルコールや過度の喫煙も症状を悪化させることが知られているので、就寝前の寝酒や喫煙は控えるようにしましょう。
②シャワー
シャワーなどの刺激で症状が軽減し、寝つきやすくなる場合があります。熱いシャワーのほうがよいか、冷たいほうがよいかには個人差があります。
③鉄剤の服用
鉄欠乏が症状を引き起こす原因のひとつと考えられています。女性は月経により、鉄分不足になる経口があるので、鉄分豊富な「あさり、大豆、豚レバー、干しひじき、鳥レバー、ほうれん草、いわし」などを積極的に取りいれ、さらに良質なたんぱく質やビタミンCなど、鉄分が吸収しやすくなる栄養素も摂るようにし、バランスの良い食事を心がけましょう。
また、サプリメントで鉄分を補給することも効果的です。 血中フェリチン濃度が50ng/mL以下の場合、むずむず脚症候群の原因となっている可能性があるので、鉄剤を服用します。
④ビタミンDやマグネシウム、葉酸を摂取する
ビタミンDやマグネシウム、葉酸欠乏によって引き起こされる可能性があり、ビタミンDやマグネシウム、葉酸摂取を増やすことによって症状が改善できる研究結果も出ています。
ビタミンDはサケ、イワシ、サンマ、カレイ、キクラゲ、干し椎茸などに多く含まれています。マグネシウムを多く含む食品は、動物性よりも植物性のものが多い傾向にあり、ほうれん草、牡蠣、大豆、米、みそ、ひじき、まぐろ、のりなどに多く含まれています。葉酸は牛レバー、豚レバー、卵黄、大豆、納豆、ほうれん草、ブロッコリーなどに多く含まれています。
⑤就寝前にストレッチやマッサージを行う
就寝前にストレッチやマッサージなどで筋肉をほぐすことも効果的といわれています。特に仰向けになり、足を交差させ、絞り込むように筋肉に力を入れる運動(レッグクロス運動)、または股関節の筋肉のストレッチを意識しながらラジオ体操を行うと改善されることもあるといわれています。
軽症であれば、これらの生活習慣の見直しや運動だけでも改善しますが、重症の場合は薬物療法を加えます。患者の多くが適切な薬物療法で症状が大幅に改善されます。
周期性四肢運動障害は現在、むずむず足症候群と同じ原因、同じ疾患カテゴリーに属すると考えられていますので、同じ薬が用いられています。睡眠薬や抗うつ薬、抗精神病薬は無効で、効果が期待できるのは、ドパミン系薬剤と非ドパミン系薬剤(抗てんかん薬、鎮痛薬、漢方薬)があります。
欧米ではドーパミン受容体作動薬を第一に使うといわれています。日本ではドパミン作動薬での治療を基本とし、効果が不十分な場合は、非ドパミン系薬剤のガバペンチンエナカビル(レグナイト)への切り換え、もしくはドパミン作動薬への追加投与を考慮するとされています。また非ドパミン系薬剤だけでは十分な治療効果があらわれない場合や、痛みが強い場合に、ドパミン系薬剤と併用する場合もあります。
〔ドパミン系薬剤〕
パーキンソン病に使う薬でドパミンの働きを補う薬、なかでもドパミン受容体を刺激するドパミン作動薬が主に使われています。
ドパミン前駆体であるレボドパは、即効性で効果が強い薬ですが、短時間しか効果が持続しないため、むずむず脚症候群ではほとんど使われていません。ドパミン作動薬は、作用時間が長く副作用は比較的少ないですが、効果がみられるまでに1~2時間必要であり、即効性はなく、会議前など、予定がわかっている時にはその1,2時間前に服用するとよいといわれています。
保険適応が認められているのは以下の2剤です。
①プラミペキソール(び・シフロール)
錠:0.125㎎、0.5mgがあり、就寝2時間前に0.125mgから開始、症状が緩和されるまで1週間ごとに0.125mgずつ増量し、最大用量0.75mgを超えないとされています。
②ロチゴチンパッチ(ニュープロパッチ)
パッチ:2.25mg、4.5mgなどがあり、最初は1日1回、日中の任意の時間帯に2.25mgを貼付し、必要に応じて1週間ごとに2.25mgずつ増量し維持量(標準1日量4.5~6.75mg)とし、1日6.75mgを超えないとされています。
また24時間毎に肩,上腕部,腹部,側腹部,臀部,大腿部に貼付し、毎日貼付部位は変える必要があります。
これらのドパミン作動薬のほかにロピニロール(レキップ)は日本では未承認薬ですが、欧米では承認されていて、プラミペキソール(ビ・シフロール)とほぼ同じくらい処方されています。ロピニロール(レキップ)も他のドパミン作動薬と同じように、就寝2時間前に少量(0.25mg)から開始し、症状が緩和されるまで1週間ごとに0.25mgずつ増量し、最大用量は1.5mgを超えないものとすると思われます。
これらのドパミン作動薬は、しばしば効果的ですが、副作用として胸のむかつきや吐き気などがみられたり、薬剤中止後に症状が悪化するというリバウンド現象がみられることが報告されています。
さらに飲み続けていると、オーグメンテーション(症状増悪)という副作用が発生することが最近、話題になっています。オーグメンテーションとは、症状が普段より早く出現したり、脚だけでなく手に広がるなどの症状増悪がみられることを意味します。中村真樹氏(睡眠総合ケアクリニック代々木院長)によると、プラミペキソール(ビ・シフロール)はオーグメンテーションの発症率が比較的高いとされています。
《発症率》
プラミペキソール(ビ・シフロール):8~56%
ロチゴチンパッチ(ニュープロパッチ):1.5%
ロピニロール(レキップ):2.3%
プラミペキソール(ビ・シフロール)に起因するオーグメンテーション対策として、
ビ・シフロールの服用を減らし、レキップに切り替えたり、足に疼痛がみられる時は疼痛の治療薬であるプレガバリン(リリカ)やトラマドール(トラムセット)など別の薬と併用することでオーグメンテーションが防止できることを報告しています。
〔非ドパミン系薬剤〕
むずむず脚症候群に対する治療薬として、抗てんかん薬のガバペンチンを改良したガバペンチンエナカビル(レグナイト)やクロナゼパム(リボトリール・ランドセン)が使われることがあります。抗てんかん薬は神経細胞の興奮を鎮静する作用があります。
①ガバペンチンエナカルビル(レグナイト)
抗てんかん薬のガバペンチンは小腸上部での吸収が一定ではなく、血中濃度の個人差が非常に大きいという欠点があります。それを改良したのがガバペンチンエナカビル(レグナイト)で、消化管で吸収されたあと、生体内で速やかにガバペンチンに変換されるため、血中濃度の個人差が小さくなるよう製剤設計されています。さらに二層構造で速効型と徐放型部分に分かれており、1日1回夕食後投与により、むずむず感や異常感覚などが出現しやすい夜間に高い血中濃度が得られるようになっており、むずむず足症候群に適用が認められています。
本剤は、ドパミン作動薬での治療で十分な効果が得られない場合やオーグメンテーションなどによりドパミン作動薬が使用できない場合、さらに足の不快感に痛みが伴う場合に使われます。
錠:300mgがあり、夕食後に600mg服用。
主な副作用として、傾眠やめまい、ふらつきがありますまた腎機能が低下している場合は使えないことがあります。
②クロナゼパム(リボトリール、ランドセン)
抗てんかん薬の一種のクロナゼパムはむずむず足症候群に対して承認されていませんが、価格は安く、効果も比較的高いとされています。症状が比較的軽い場合や不眠症状が主体の場合に期待できます。クロナゼパムはベンゾジアゼピン系の薬で半減期が長く、眠気を持ち越す可能性があるため、就寝2時間前に少量の0.5~1mgを服用するのが適当と思われます。
③プレガバリン(リリカ)、トラマドール(トラムセット)
やはり保険適応外ですが、特殊な鎮痛薬であるプレガバリン(リリカ:就寝前に150~300mg)やトラマドール(トラムセット:就寝前に100~300mg)も効果があるとされ、痛みの伴うものやドパミン系薬剤にて治療抵抗性の場合に効果が期待できるといわれています。
④漢方薬
症状が比較的軽い場合、漢方薬が有効な場合があります。その一例を示します。
症例は16歳女性。
主訴は、足のむずむず感と少し便秘気味
3年位前から時折両足がおもだるく、時には痛みを感じ、救急外来にいきたくなるほ
どだった。整形外科では特に異常はみられず、精神的なストレスではないかと言われ、抗うつ薬が勧められたが漢方薬を求めて来院。
(現症)
足の内側に何かが溜まっている感じがあり、それが、日によって足首に移動することがある。以前は毎日あったが今は少し少なくなっている。
ひどい時は足が痛いが夕方以降に足のむずむず感が出ることが多い。
そのほかには、寝汗をかく時もあり、朝起きたら喉が渇いている。
暖かい部屋に入ると、顔が熱くなる感じがある。
フロ上がりは、上半身は暑い。
汗が多くて、手汗をかきやすい。
排便は、2日に1回で、少しコロコロした便でやや便秘気味。
舌:紅舌、無苔、胖大軽度、歯根軽度、怒張なし
脈:沈弦細で按じて細渋無力
以上より、漢方的には肝腎陰虚陽亢と診断し、滋陰至宝湯の投与にて1カ月後には足のむずむず感は完全に消失し、以後もみられていません。
《治療の展望と予後》
薬物療法は、急にやめると症状が悪くなることがあるので、気長に治療を続けることが大切で、長期にわたる治療が必要ですが予後は良いとされています。しかし発症して2年後に調査すると、無治療でも改善していた人が約半数もみられたという研究結果もあります。症状がひどい時には薬物治療を受け、しばらくしたら、止めて様子をみるのもよいかもしれません。妊娠中は発症しやすくなりますが、多くは出産後すぐに症状がなくなります。
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